まえおき
この記事では、私自身の経験をもとに、オンラインゲーム内のアバター文化と自己表現について考察します。
震災やコロナ禍を経て、私は現実の人間関係から距離を置き、ゲーム内のキャラクターに心の拠り所を見出すようになりました。AI技術を活用し、そのキャラクターを具現化する過程は、私にとって単なる創作ではなく、自己再構築のプロセスでした。
こうしたデジタル時代の自己表現は、哲学や心理学における「ペルソナ」「シャドウ」の概念とも深く関わっています。本記事では、そうした理論を交えながら、デジタル空間における「仮面」と「自己」について探求します。
導入:震災とコロナ禍の中で見つけた避難所
震災やコロナ禍は、多くの人々にとって日常生活のあり方を根本から変えてしまった。家族や友人との物理的な距離が強制され、社会的つながりを維持することが難しくなる中で、人々や、そして私は新たなコミュニケーションの場や精神的な拠り所を模索した。
時が過ぎ私にとって、その避難所はオンラインゲームの中にあった。ゲームの世界では現実の顔を隠し、別の人格をまとって生きることができた。それは、ユングが「ペルソナ」と名付けた仮面に似ている。
ユングの「ペルソナ」と「シャドウ」
心理学者カール・ユングは、人間が社会に適応するために作り出す「ペルソナ(仮面)」と、無意識に抑圧された側面である「シャドウ(影)」の存在を指摘した。
当時の私は、現実の自分がペルソナであり、ゲーム内のキャラクターはシャドウだったように思う。現実では社会の期待に応えながら生活し、ゲーム内では自由に感情を表現できる存在としてのキャラクターに心を託していた。
鴨長明『方丈記』の無常観
ここで思い浮かぶのが、鴨長明の『方丈記』である。彼は社会の混乱や災害を経験したのち、小さな庵にこもり、世間と距離を置いた生活を選んだ。
「世の中にある人とすみかと、またかくのごとし。」
長明は変化と無常を受け入れ、孤独の中に安らぎを見出した。同じように、私はゲーム内のキャラクターに癒しを求め、現実から距離を取ることで心を落ち着けることができた。
一度の離脱とAIによるデジタル仮面の創造
時が経ち、一度ゲームから離れた時期があった。しかし、心の中の奥にゲーム内のキャラクターが存在していた。彼女、彼らは単なるデータではなく、私の内面の一部を象徴する存在だった。
ゲーム内の思い出から私はAIを利用してキャラクターのビジュアルイメージを具現化することに挑戦した。2Dイラストとして作成されたキャラクターは、私の心を投影する「新しい仮面」となった。
ゴッフマンの「印象管理」
社会学者アーヴィング・ゴッフマンは、人は社会の中で役割を演じる存在であり、自己を管理しながら他者に印象を与えると説いた。
ゲーム内でアバターを作る行為もまた、この「印象管理」の一環である。プレイヤーは理想の姿を作り上げ、他者にどう見られるかを意識しながら、自己を表現する。このプロセスは現実世界の延長線上にあると同時に、現実からの解放でもある。
ペルソナとシャドウの逆転とAIによる再生
AIによるキャラクターの具現化は、私にとって新たな自己の創造だった。しかし、それは単に新しい仮面を作る行為ではなく、ユングの「自己の統合」に向けた歩みでもあった。
かつては現実がペルソナであり、ゲーム内がシャドウだった。しかし、震災やコロナ禍を経て、現実から距離を置くことで、この関係は逆転したように思う。今や、ゲーム内のキャラクターが私の「ペルソナ」となり、現実の私は内面に隠された「シャドウ」として存在している。
フロイトの「イド・エゴ・スーパーエゴ」
フロイトの理論によれば、私たちの心理は「イド(欲望)」「エゴ(現実)」そして「スーパーエゴ(道徳)」の3層から成り立つ。
ゲーム内のキャラクターは「イド」の自由な欲望を表現しつつも、「エゴ」として現実との調和を保ち、「スーパーエゴ」によって他者との関係性を築く。こうした心理的なバランスが、ゲーム内での安心感を生んでいたのかもしれない。
3Dへの挑戦と未来の自己表現
現在、私はAIで作った2Dイメージを3Dで甦らせることに取り組んでいる。このプロセスは単なるデザインではなく、自己表現の進化であり、新たな現実を創造する試みでもある。
ニーチェの「超人」とサルトルの「実存主義」
- ニーチェは「超人」を提唱し、人は自己を超越することで新しい価値観を築くべきだと説いた。
- サルトルは「実存は本質に先立つ」と述べ、自らの存在を自分で創造していく自由を強調した。
これらの思想は、デジタル仮面を通じた自己創造のプロセスと通じるものがある。
『方丈記』の再解釈と問いかけ
鴨長明が庵で築いた静かな生活は、現代におけるデジタル空間のようだ。しかし、その庵は孤立ではなく、新たな価値を見つける場でもあった。
最後にみなさんに問いたい。
「あなたにとってアバターは何を意味しますか?」